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ソフィア在宅療養総研設立のお知らせ

ソフィアメディ株式会社は、超高齢化社会を迎える課題先進国日本での、在宅療養の「在り方」について考え発信することを目的に『ソフィア在宅療養総研(以下、総研)』を設立しました。日本最大級の在宅療養者や看護師を中心とした医療専門職を有する同社の知見やデータを活用することで見えてくる、「在宅療養の未来」について所長の伊藤と研究員の中川が対談形式でご報告します。

さまざまなデータを公開し、在宅医療の中身を見える化

聞き手)総研を設立した背景について教えて下さい。

伊藤)この総研は、ソフィアメディでの訪問看護事例、また組織としての取組み事例などをもとに在宅療養の「在り方」を考え、発信・共有するチームです。在宅療養は一人ひとり、ひとつひとつの個の体験。人の数だけ「生きる」があり、看るがある。それを俯瞰してとらえることで在宅療養自体の今を発見し、未来を考えることができたらと思っています。

中川)在宅医療はまだまだ担い手が少ない分野。加えて、在宅でどのように医療を提供されているかわかりにくいところがありますよね。一方で、在宅医療は自分の人生の重要な部分に関わってくるものでもあります。大事なサービスであるにもかかわらず、その実態がよくわからないという課題を解消していく場にしていきたいですね。

伊藤)私は父を在宅で看取った体験をきっかけに在宅医療業界に携わるようになりました。それまでは他領域での経歴しかありませんでしたので、在宅医療がどのように行われるのかは、自身が体験して初めてわかりました。一人の家族として、在宅医療への感謝とともに、もっと以前からこの選択肢を理解できていれば良かったなという気持ちもあります。 在宅だけでなく、医療全体がまだまだ見えにくいところが多いかもしれません。だからこそ私たちにできることとしてまずできる限りのデータを集めて公開し、中身が見えるようにしていくことが大事ではないかなと思っています。

中川)健康な人は医療そのものに関心を抱きにくいこともあります。でも、社会インフラのひとつである在宅医療を、もっとわかりやすく伝えていく工夫が必要になりますね。

伊藤)そのためには、データを公開し、透明性を高め、みんなで議論できる場にもしたいと思っています。医療は誰にとっても自分ごと。どういう生き方をしていきたいかやどんな最期を迎えたいかなどというのは、生きている私たち全員のテーマですよね。それは知識があってもなくても関係なく。

中川)在宅医療は特に日常に寄り添ったものですし、医療業界に閉じず、いろんな人がいろんな立場で語り合うことで、多くの人に知ってもらえるようにしていきたいです。

伊藤)そうした部分を話せるきっかけ作りはとても重要ですよね。対談やインタビュー記事なども掲載し、さまざまな考え方、視点に触れられる場にしていきたいです。

在宅医療の働き手である訪問看護師たちのリアルも表現
情報共有で現場の改善につなげる

聞き手)注力したいテーマにはどのようなものがありますか。


図:ソフィア在宅療養総研の重点テーマ

伊藤)まず、「在宅医療業界の働き方改革」。在宅療養を支える訪問看護師、リハビリ専門職、ケアマネジャー、医療事務など、働き方のリアルを共有しあえたらと思います。どんな働き方をしているのか、どうしたらその働き方が改善していくのかなど。それも、非常に見えにくい部分なんですよね。ソフィアメディでも私たち一人ひとりが働きがいを感じられているのかを定点調査し、課題を捉え改善に取り組んでいますが、特に医療職ならでは、あるいは在宅医療ならではの留意点や課題、あるいは可能性もあると感じています。

中川)在宅医療の現場はほんとに大変。24時間365日ご利用される方に合わせた運営が必要になりますが、十分休めていない、という方も多いです。在宅医療業界は、労働基準法が追いついていないとよく言われますが、こうした課題については十分な議論をして、業界全体で改善をしていきたいです。どこの訪問看護ステーションでも共通した課題を抱えています。加えて根本的な課題ともなっている担い手不足についても解決していけるように、訪問看護全体の働き方について議論し、業界全体で変えていきたいです。

伊藤)自分の組織ではこういう働き方が当たり前と思ってきたけれど、別の組織では違うやり方、アイデアがあって、こういう方法もあるんだという。いろいろな現実を情報として持ち寄ることは大切ですよね。

中川)特に、改革が必要な部分については、包み隠さず、オープンにしていきたいです。働きづらさって表現しにくいので、工夫が必要ですよね。

伊藤)オフィスワーカーの領域では、企業間でのナレッジシェアはこの10年ほどで活発に行われるようになっています。一方でいわゆる労働集約型の組織では、性差にかかわらず働きやすいかどうか、プライベートと両立できるか、育児や介護と両立できるかといったことをシェアする場が比較的限られていると感じます。

プロフィール:所長 伊藤 綾
早稲田大学法学部卒。出版社勤務、専業主婦を経て、2000年株式会社リクルート入社。「ゼクシィ」事業部にて2006年首都圏版編集長、2011年統括編集長。2015年株式会社リクルートホールディングス ダイバーシティ推進部部長、2016年 同ソーシャルエンタープライズ推進室(2017年よりサステナビリティ推進室)室長。2018年よりパートナー、及び伊藤ハム米久ホールディングス 社外取締役。2020年株式会社イー・ウーマン社外取締役。企業のサステナビリティ経営、ダイバーシティ、人材育成に携わる。実父を在宅療養で看取った体験から、患者とその家族の視点による訪問看護の価値追求を志向し、2019年よりソフィアメディ株式会社 VMS推進本部本部長をつとめる。

中川)そうですよね。医療業界は構造的な部分は共通していますので、ナレッジシェアをすることで平均値を上げやすい特徴もあります。

また他業界と比較すると、業務のIT化についても遅れています。IT化による働きづらさの解消はかなり期待できるのですが、例えば電子カルテの普及率も30%程度と低い状況です。1日の中で看護記録に向き合う時間は約25%を占めているのですが、サービス提供後に書くことが多いので、夕方に溜めやすく、残業につながりやすいんです。

加えて訪問看護のような1件1件の移動が必要な業務において逐一事務所に戻らないとできない仕事を増やしてしまうとより働きづらくなります。しかしながら、地域の関係者の皆さんと多くの連携を必要とするところもありますので、在宅医療業界全体でIT化を推進しないとなかなか改善しづらい、という状況もあります。

伊藤)在宅医療ならではのIT化の課題にはどのようなものがありますか。

中川)例えば1人の在宅療養者に関わるのは訪問看護師だけでなく、医師やケアマネジャー、ヘルパー等多種多様です。そして、すべて別の法人になることもあり、それぞれに逐一、手紙を書かなければいけないなど非効率さが構造的に存在しています。地域一体型のカルテのようなものがあってそこに書き込めば、関係者が一括して見てもわかる、というのが効率的なのですが、なかなか進んでいかない状況です。

伊藤)でも一方でそうしたところに取り組んでいる地域や法人もありますよね。

中川)はい。IT化を推進している法人の取組を報告し、ナレッジシェアができるといいのですが、なかなか使い慣れない人も多いので、医療とITの両方をわかっている人が、どんどん広めていく過程も重要になります。そうやって、IT化を推し進めている人たちの事例がシェアされていけば、イメージが湧きやすく、発展していきやすいのではないかと思います。

在宅医療業界は比較的平均年齢も高く、ITを使い慣れていない方の割合が多いです。だからこそ、丁寧に、浸透していく過程が必要不可欠なんです。

伊藤)そこはチームワークで補えるかもしれませんよね。もちろん年齢層だけで判断することはできないし、すべきではないですが、チーム全体のITリテラシーを一律に引き上げるだけではなく、得意なスタッフのITリテラシーとベテラン層が積み上げてきた専門経験を融合していく、そんなステーション運営を目指す形もある。

中川)多様性をいかにうまく管理していくかというところは大切ですね。事業所によってはベテラン層ばかり、逆に若手ばかりに偏りやすい傾向があるなと思っています。ダイバーシティマネジメントの推進が一つの打ち手になるかもしれません。

伊藤)IT化に関しては、今ソフィアメディでもいろいろな試みを始めたので、社内での実証実験の結果をシェアするというのも、総研としてはできることですね。もちろん、失敗も含めて。

訪問看護の経験は大きなスキルになる。
キャリアプランという発想も話題に

聞き手)在宅医療業界が人手不足になりがちな構造的な要因をどのように捉えていますか。

伊藤)働きやすくなって、この仕事を続ける、また目指す人が増えるといいですよね。やはり、なんといっても在宅医療業界の一番大きな悩みは、人手不足ですから。

中川)そうですよね。担い手が少ない理由は、やはり一定の難易度であることも影響していると思います。先ほどもお話しましたが、例えば訪問看護師1人で20人の在宅療養者を看ると、その一人ひとりに別の法人の医師がいて、ケアマネジャーがいて、リハビリ専門職がいて、となり、関係者はざっと100人ぐらいになってしまう。それをマネジメントしようというのは、相当難しいんです。

伊藤)たしかに、そこは医療の知識や技術とはまた別のケイパビリティになりますね。

中川)はい。そういう部分の業務支援みたいなものがシステムとしてあると、非常に有効です。その他は、私にもできるんだ、という自信が持てるような情報が必要です。訪問看護はなんとなくベテランが働く場所、というバイアスもありますが、そんなことはありません。訪問看護はひとりで訪問するから、全部ひとりで判断しないといけないと思われがちですが、実際はそうではありません。むしろ逆で、難しいことはすぐに管理者に相談してください、ひとりで判断しないでください、と言っています。正しい情報を出し、そうしたバイアスを解消できればと思います。

プロフィール:研究員 中川 征士
藤田医科大学卒業後、日本福祉大学大学院社会福祉研究科修了。医療法人勤務を経て2017年株式会社Community Management創業。在宅医療に関する事業を展開する。奈良県内基礎自治体にて医療福祉関係の政策に関わる。2020年ソフィアメディ株式会社と経営統合し、同社の品質管理に従事する。

伊藤)加えて私は社内の研修で、キャリアプランについての話をすることも多いのですが、キャリアの考え方に関する情報や示唆も、在宅医療職のスタッフに渇望されていると感じることが多いんです。医療職ならではのさまざまな環境要因は発生するけれど、業界問わず現代に働くひとりの人間として、大きくキャリアをとらえることも重要だと思います。その上で、自分自身が何をしていくのか、何を装着していくのか、成長していくのか。根本的に、人が働きがいをもって継続していけるものとしての「キャリア」という考え方やその情報もとても重要だと感じます。

中川)私も看護学校の実習などで指導することもありますが、ほとんどの生徒さんが「在宅医療って温かくていいな」という印象を持っています。「いつかはいってみたいけど、10年後、20年後ぐらいかな」という人が大半を占めます。そのうちに結婚して出産し、オンコール待機のある訪問看護は無理かな、という風になっていく方が多い印象です。ライフイベントも意識して訪問看護の経験をするかどうかはすごく重要なんですよね。5年目ぐらいで一度、在宅医療を経験するとすごくその後のキャリアが広がるよ、と伝えていきたいです。

伊藤)在宅医療を働く人の経験の機会としてとらえると。

中川)はい。在宅医療の経験があると、後でどこでも重宝されるんです。いろんな地域の関係者と協働する経験は病院ではなかなか出来ません。また1人の在宅療養者を長く看ていくことで得られる経験は図りしれません。病院という非日常での患者像と家に帰った日常での在宅療養者像は全く異なるんです。だからこそぜひ5年目ぐらいで訪問看護のキャリアを積むと、その後いろんなところで活躍できるよ、というのことを発信していきたいです。

業界最大級の在宅療養基盤ならではの知見を初公開
在宅療養者の満足度を切り口に業界発展に貢献する

聞き手)運営会社の定量的、定性的な知見をメディカルレポートという形で初めて公開したと伺いました。公開に至った背景、メディカルレポートとしてまとめて発信するに至った経緯を教えて下さい。

伊藤)総研として注力したいもう1つの重点テーマは「在宅療養者の満足度が高まる業界の未来」です。本人と家族の満足度が高まるポイントとは。中重症度の在宅療養者を受けいれられる事業所運営のポイントとは。こうした問いを通して、在宅療養者の満足度向上につながる構造を明らかにし発信していきたいと考えています。今回、ソフィアメディが公開したメディカルレポートも在宅療養者の満足度そしてその構成要素を明らかにし、社会へと還元する試みとして取り組んだものです。

医療に限らず、2010年代後半ごろから世界中でコーポレートレポートによる統合的な開示が積極的に行われるようになりました。企業は社会の一員として、どのような強みをもち、どのような課題を認識し、改善し、そして「どのような価値をどのくらい生み出すのか」が問われています。さらに、訪問看護という領域はその存在自体もまだ十分に認知されているとはいえません。だからこそより一層、事業活動を定量化して振り返り、開示していくことに意味があると考えました。訪問看護の具体的な実績に加え、お客様や連携先機関のみなさまからの満足度調査の結果も開示しています。もちろん「価値」のはかり方に正解はないけれど、在宅療養に触れる方々の何かの参考やきっかけ、物差しになればと思っています。

中川)正解がないからこそ、定量化し、振り返ることに意義がありますよね。ぜひいろんな立場の方からご意見を頂き、在宅医療のあるべき姿について検討を重ねたいです。日本の在宅医療は欧州などと比べて4半世紀遅れているとも言われています。その上、働き手も不足しています。発展途上でもあるからこそ、質について議論を生むような働きかけをしていかないと、量だけが増えていくことも危惧されます。
メディカルレポートでは、医療の質をドネぺジアンモデルを活用し、ストラクチャー・プロセス・アウトカムの3要素で構造化して示していました。約半年間の実績を様々な指標を設定し、公開しています。

聞き手)具体的にはどのような内容を開示されているのですか。

中川)3つの要素別に、ストラクチャーについてはステーションの運営状況、サービスを提供するスタッフの職種比率やスキルレベル(ラダー)、地域の関係機関との連携体制を表しました。またプロセスにおいては、利用者数の推移、介護度や保険種別、訪問件数や期間を含めたサービスの提供状況とサービスに対する満足度を表しました。最後にアウトカムにおいては、サービス満足度調査のデータを活用し、利用者や家族、地域関係機関からの評価を表しています。


ソフィアメディ アニュアルレポート2021【6MB】

ストラクチャー・プロセス・アウトカムの3つの要素は互いに関連性を持つ構造となっていて、バランスが重要です。アウトカム指標が高い値であったとしても、適切な運営体制や連携活動がないままでは質が高いとは言えません。結果だけにこだわるのではなく、適切な運営体制やプロセスも重視しています。また、在宅療養は本人だけでなく、その家族も視野に入れた関わり方がすごく重要です。そうした部分も運営体制や満足度調査等を元に、示しています。

その他には病気や障害を抱えながらでも、「不安なく暮らせているか」、「私らしい在宅療養の選択が出来ているか」等を在宅療養の重要な指標として定め、表しています。これらは特に在宅療養や在宅医療体験における重要な価値基準となると考えています。

まだまだブラックボックスとされている在宅療養や在宅医療の実践を可視化し、毎年発信していきたいです。そして、議論がどんどん盛んになっていくことを期待しています。

公益性のある発見を大小問わず発信
本質的な議論に迫っていきたい

聞き手)最後に意気込みを教えてください

中川)在宅療養者が急増していくこれからの時代に必要とされる情報を発信し、受け手と担い手の観点から有益な調査をしていきたいです。

伊藤)この総研はまだスタートしたばかり、一歩一歩学びながら小さな発見や小さな提言も臆せず場に提示して、議論のきっかけを作っていかれたらと思います。

聞き手)ありがとうございました。