災害時、災害支援ナースや災害派遣医療チームDMATなど様々な医療職やチームが被災者の救護にあたります。災害の多い日本において、災害医療はこれからますます強化が必要になります。その中でも災害看護専門看護師は、発災時の救護はもちろんのこと、防災から災害後の長期的な支援まで、災害にオールマイティに対応する災害看護のプロ。今回は、災害看護専門看護師のKさんに資格取得の経緯と災害時における訪問看護師の重要性について伺いました。
※記事の内容は2022年6月取材当時のものです。
地元の被災をキッカケに災害看護専門看護師に。看護師として自分ができることを
ー災害看護専門看護師とはどのような資格ですか?
災害看護専門看護師は、災害が発生する前の防災対策から災害が起きた後まで災害に関わる全てのサイクルに対してオールマイティに支援の対応ができる専門の看護師です。
災害医療や看護のイメージとして、災害現場に駆けつけて命を助けるというイメージがもたれやすいかもしれませんが、避難所や仮設住宅でのサポートも重要になります。
ー災害支援に関わりたいという想いは昔からお持ちだったのですか?
私は宮城県が地元なのですが、東日本大震災で自分の生まれ育った街が被災しました。その当時私は神奈川の大学に在学中でしたが、2日前まで地元に帰っていました。もし少しでもタイミングがずれていたら、私自身どうなっていたかわかりません。こうやって命を助けてもらったことにも意味があると思い、看護師としてできることをしていこうと思うようになりました。
ーご自身の震災の経験がキッカケだったのですね。では、災害看護専門看護師はどのような経緯で取得されたのですか?
災害看護の専門的な知識を深く学び活かしていきたいとずっと思っていました。大学病院に勤務しているときに災害看護専門看護師という資格があることを知り、大学院に行くことを決意しました。
資格取得の仕方を調べていく中で、日本赤十字看護大学大学院には、災害看護だけでなく国際看護についても学べることを知り、両方勉強できる、自分にぴったりの環境だと思いチャレンジしてみることにしたんです。ありがたいことに入学でき、その後無事に資格を取得することができました。
ー資格を取得する前と後で看護観が変わったことはありましたか?
やはり、専門の資格を有する者としての責任がより大きく問われるようになったなと思います。根拠をもって説明できることも求められますし、この資格を持っている人もまだ少ないので、そういった意味でも責任は大きいです。
地域と在宅で医療を受ける人々を守るため、訪問看護師に
ー災害というとやはり救急領域や病院に所属される方が多いイメージがありますが、Kさんはなぜ在宅医療の世界に進んだのでしょうか?
卒業時、災害看護専門看護師の資格をどのように活かし、どこに就職するかすごく悩みました。検討する中で、地域に目を向けてみた時に、防災対策がしっかりできている地域とそうでない地域の差が大きく、病院には災害に関する知識や技術に長けている方々が多くいらっしゃいますが、在宅の現場ではそういった方々は少ないと感じました。
今後病院に入院できる期間が短くなっていき、自宅で医療を受ける人が増えていく中で、患者様が家で被災をする可能性が高くなっていきます。もしそのような状況で災害が起きれば、助からない人も今まで以上に増えてしまうのではないかと感じました。そのため、地域における災害対策の強化が求められると考え、訪問看護に進もうと思いました。
ー災害看護専門看護師が在宅医療の領域に進まれるのは珍しいとお聞きしました。
そうかもしれません。災害看護専門看護師の資格自体が新設されて間もなく、資格保有者も数十人しかいなかったので、その中で地域や在宅の領域に進んだのは当時私を入れて二人でしたね。今は少し増えたかもしれないですが、まだまだ全然いないんです。これから増えていくといいなと思っています。
ー訪問看護師として働いてみて、新たな発見はありましたか?
訪問看護師として日々訪問をする中での経験が災害看護専門看護師としての経験に多く活きています。お客様と向き合うこと、ご自宅という限られた環境で工夫をしてケアをすること全てが災害看護に直結していると感じています。
ー日々の業務や経験からも吸収して災害看護に活かす学びの姿勢が素晴らしいですね。
訪問看護だからこそ鍛えられた視点ですし、そのような視点をくださるお客様とご家族様には感謝しきれません。その分私はやはり自分のできることとして、災害の分野で皆さんに還元したいと思うんです。
病気と必死に闘って必死に生きている方々が、災害が一つ起きただけで、逃げられなくて何もできず、その命がなくなってしまうというのは私にとって一番悔しいし耐えられないことなんです。それを防ぐためにできる限りのことを考えて、対応していきたいと思っています。
一生懸命生きている人の命が災害に奪われないように。災害における訪問看護師の重要性
ー今ソフィアメディの災害対策プロジェクトに参画されていると思いますが、Kさんはどのようなことをされているのですか?
会社の災害対策としては、BCPの作成、各事業所の災害マニュアル作成、防災訓練の指導などを行っています。
また、災害時は被災状況によってはスタッフがお客様の元に伺えない可能性もあるので、万が一、訪問看護師がお伺いできない状況があった場合でも乗り越えられるようチェックリストを用いて医療処置等の手技の確認(どこまでできて、どこからができないのかなど)を行ったりもしています。お客様に関わる部分はスタッフの皆さんにもたくさんのご協力をいただきながら進めることができています。
あとは、お客様ご自身の病気や薬を書いた緊急支援カードの作成も行っています。
私が熊本地震の避難所での支援に行ったときに経験したことなのですが、詳細に自分の病気や飲んでいる薬について把握している方が非常に少なかったんです。薬の名前が分からなかったり。そのため、診療までに時間を要する現状がありました。
現場でそのような光景を見ていたので、在宅のお客様も情報をまとめたカードを持っていれば必ず役に立つと思いました。ある程度の情報があれば診療等もより早く・多くの方が受けることができると思います。
ーKさんのお話を聞きして地域や在宅での対策の重要性を感じました。
災害看護専門看護師は人数的にはまだまだ少なく、広がりきっていない分野ですが、これから地域においても大切になっていくところだと思います。
私たち資格保持者が中心となって皆様に提供できることを推進していくのはもちろんですが、それだけでは足りなくて、やはり防災や災害の知識を医療職・総合職を問わずみんなが持ち、いざ災害が起きた時にお客様やご家族様、周りの人達も一人ひとりが助け合えるように日頃から関わっていただけると犠牲者の数も減るのかなと思います。災害時、悲しいことはどうしても起きる可能性がありますが、それを最小限にすることはできると思うんです。だから皆さんに少しでも防災について関心を持って頂きつつ、少しでも私が役に立てることをしていけたらなと思います。
ー最後に、今後Kさんが資格を活かして実現したいこと教えてください。
避難所へ避難されている方々のケアやサポートとして、普段から個別性と柔軟性に富んだケアを行っている訪問看護の存在は、臨機応変さが求められる災害時においてとても大きく、在宅の現場だけでなく避難所支援など、災害における訪問看護師の介入は今後さらに必要になっていくと思います。様々な地域の訪問看護スタッフの皆さんと協力しながら今後地域の災害対策をさらに強化していき、一人でも悲しむ人を減らしたいです。
また、私は宮城で生まれ育ったので、災害看護専門看護師としていつか何かしらの形で地元に還元したいなと考えています。お世話になった沢山の人に感謝の気持ちを返したいというのもありますし、生まれ育った地元が被災をするという経験をした私だからこそできることをこれからも考え行動に移していきたいと思います。
ー素敵なお話をありがとうございました。
ご自身の原体験から強い使命感を持ち、予測できない災害から多くの命を守るために日々活動するKさん。インタビューの中で「ご縁を頂いた皆さんに私ができることを通して恩返しがしたいんです」と何度も仰っていたことがとても印象的でした。周りの人を想う気持ちが人一倍強いKさん。きっとKさんの活動でこれから多くの方が救われることになるでしょう。
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