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【総研セミナーレポート前編】訪問看護ステーションにおける教育体制整備について:新入社員研修や教育体制をどのように構築しているか

こちらは2022年2月8日(火)に行われたソフィアメディ在宅療養総研セミナーのレポート記事です。セミナーには185名の参加申込みがあり、訪問看護業界における教育体制整備への関心の高さが伺えました。訪問看護の管理運営に関わる管理者や教育を担当されている方だけでなく、訪問看護教育に関する研究調査をされている方々が参加され、訪問看護業界における教育体制について多角的な意見が飛び交う会となりました。

ウィル訪問看護ステーション、WyL株式会社の代表取締役である看護師の岩本さんをお迎えし、ソフィアメディ株式会社の教育研修グループ兼研究員の吉江さん、大規模ステーション管理者の宮地さん、ソフィアメディ在宅療養総研所長の中川さんと訪問看護ステーションにおける教育体制の整備について、お話しいただきました。医療機関や介護事業所等で教育担当の方や管理者向けの内容となっております。

神奈川県訪問看護推進協議会の報告(2014年)によると、新採用者に対するプログラムが導入されているステーションは約6割のようです。その他現任者や管理者に対する教育プログラムの導入率はさらに低く現任者へのプログラムは約4割、管理者においては約1割とされています。

引用
2014年度 在宅医療(訪問看護)推進支援事業
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/951216_3011643_misc.pdf

在宅療養者の増加に伴って、訪問看護師の活躍の場は増えていますが、一方でその訪問看護師を教育として支える体制は業界的に不十分とされています。また小規模事業者が多く、教育を専任として担当する人材が不在であることや定期的に新入社員を迎え教育研修を実践する機会も乏しく発展に向けた課題が散見されます。

このセミナーでは、一定の規模感を持ち、訪問看護業界における教育体制の課題を抱えながらも構築に向けて実践している方々から具体的な例をお話しいただきました。


テーマ①新入社員研修をどのようにしているか

岩本さん:
ウィルでは新人さんに対して、『ウィルの歩き方ガイド』というマニュアル、eラーニング、技術チェックリスト、クリニカルラダー、同行訪問とその振り返りシートなどを基本的な教育ツールとして活用し、どこのステーションでもある程度は統一して進めています。新人さん向けのコンテンツであるeラーニングは、学研さんと作った動画があり、入職してから1〜2か月程度で一度みてもらっています。それで足りないものは、自分たちで随時動画にしています。

WyL株式会社提供資料 eラーニングの例

最初は座学と同行訪問の両輪で、実践を通して知識や技術を身に着けていく流れです。よくある技術チェックリストは、これまでやったことがない技術を把握するためのチェックとして活用しています。OJTに出てからはじめて状況を知るより、事前に知っていたほうがいろいろと準備ができますから。クリニカルラダーに関しては、特に訪問看護がはじめての場合、看護師経験が何年あっても学び直しが必要だと考えているので、ラダー1からスタートします。おおむね6か月を想定していて、1か月ごとに小目標にわけてステップが踏めるようになっています。ラダーの構造としては、『ベナーの発達段階』をモデルにしています。

WyL株式会社提供資料 ラダーレベル1の例

ラダーの考え方も、新人さんを評価するというより、新人さん自身がどんなことができているかと振り返り、先輩と一緒に確認していくようなイメージです。ウィルでは教育や学習体制はこのように整えてはいますが、新人さんの自主性も大事にしています。毎週行われるカンファレンスでは、新人さんがどこまで勉強したか、訪問で難しいと感じているところはどこかなど、所属チームの先輩たちと自ら進捗を共有できるようにしています。先輩たちもチームとして新人さんの状況を知っておくことで、先回りしていろいろと準備することができますから。また、同行訪問と振り返りでは、同行した先輩が訪問記録を書くと、電子カルテで振り返りシートが紐づけられているので、そこに新人さんの情報も記載できるようになっています。同行が何回目で、先週は誰と同行して、どういうことをしたかがそこからわかります。できるだけ状況は透明化し、誰でも閲覧して進捗を確認、コメントできるようになっています。

吉江さん:
ソフィアメディでは毎月30〜100人程が入社するので、集合型の新入社員研修をとっています。入社後5日間で集中的に座学やグループワーク、訪問同行研修を組み合わせながら実施しています。ソフィアメディの理念をしっかり伝え、訪問看護の基礎となる知識・制度をしっかり理解できるように、グループワークを中心にして学んでいきます。ケースメソッドの実践型教育コンテンツ等を用いて、自分が課題に対面した人になりきり、この状況に対する受け止め方、考え方などを複数人で議論して整理していくアクティブラーニングを取り入れています。本部での研修が終わると、それぞれがステーションに配属され、主任や管理者、メンターが中心となって社員ハンドブックをもとにOJTを行います。3か月後にはフォローアップ研修として入社後の学び、振り返りの機会があり、自己管理シートなどを使って内省しながら各種業務を覚えていく流れになっています。

また、ソフィアメディでは、YAMASATOシステムという教育体制があります。

山・里というのは、仏教や山伏の修行で使われる言葉で、山での修行で自分の知恵や能力を身に着け、里に降りてきて実践して学んでいくという考え方を取り入れて概念化しました。山レーンでは新入社員研修やグループワーク、自己の内省などさまざまなツールを使って階段をのぼっていくようなイメージになっていて、里レーンはOJTや多職種連携などメンターのフォローを受けながら日々の臨床を行う、現場での教育を表しています。また、ステーション支援グループという組織があり、ベテランから専門的なサポートを受けられるようにしています。

ソフィアメディもクリニカルラダーを導入しています。スタッフのスキルやスタンス、サービスの推進を高める水準を可視化したいという思いから導入しました。日本看護協会のクリニカルラダーと滋賀県看護協会で出している訪問看護師向けのステップアップシートをアレンジしてソフィアメディ独自のものを作成して活用しています。看護師とセラピスト、職種ごとに技術項目ごとに細分化されたステップアップシートを用い、自己評価と面談を通した上司からの他者評価によって5つの大項目のすべてが80%を超えるとラダーが決まるという仕組みになっています。

またラダーに応じて研修を設定していて、コロナ禍でオンライン研修の頻度が高くなり、看護師とセラピストそれぞれに外部の専門的なオンラインプログラムを活用しています。加えて、在籍する認定看護師によるオリジナルの動画研修も取り入れていて、オンラインで受講できる研修数は905近くあります。

ステーションでのOJTについては管理者の宮地さんからお願いします!

宮地さん:
私はソフィアメディ訪問看護ステーション元住吉で管理者をしています。看護師11人、セラピスト10人のステーションです。新人教育は基本的に主任が担当し、メンターが心理的なフォローをしています。しかし、すべて主任やメンターが担うわけではなく、お客様にはプライマリーの先輩がいるので、できることをステーションのみんなで対応してもらっています。本部で研修を受けた後、まずは最低でも3回は同行訪問してもらうようにしています。最初はプライマリーの先輩と一緒にお客様との顔合わせやケアの見学から、その時の新人さんやお客様との様子を観察していきます。この段階がクリアできれば次の週にも訪問し、実際に手技の工夫、報連相のやり方などのレクチャーを受けて、3回目は新人さんメインに実践という流れにしています。3回目でも新人さんやお客様、ご家族の様子がまだ気になる場合には、何度か同行を続けていきます。

看護師自身の経験の違いもありますし、お客様の状況もさまざまですから、訪問が怖いと感じることがないように、心理的な安全性を大事にしながら進めています。最初は先輩が受け持っているお客様で、週2回訪問に行っているような方から受け持ちはじめ、新人さんが新規のお客様の受け持ちばかりにならないように、常に先輩と一緒にみていけるように気を付けています。単独訪問が増えていっても、管理者である私のほうから報連相のポイントや訪問スケジュールを確認し、看護技術やアセスメントができているか、不安がないかどうかの声かけもこまめにしています。

最初は1か月、3か月など、新人さんに合わせて1on1をします。そのときにはクリニカルラダーを活用しながら、目標管理シートである『MBOシート』と合わせて、一緒に研修計画を立てていきます。面談では知識や技術指導だけではなく、どういう看護師になりたいか、どんな看護をしたいか、人生のなかでの仕事の位置づけ、現状どうなりたいか、描く未来がどういうものか、どう働きたいか、そのためにはどうしたらいいかを問いかけ、また日々の訪問での労いや感謝を伝えながら、一緒に考えていきます。私たち管理者が見守っていること、一番の応援者であると認識してもらえるように、まずは新人さんの人となりを知り、マネジメントや指導に生かすようにしています。


②教育ツールや体制の構築について

岩本さん:
ウィルでは「全ての人に”家に帰る”選択肢を」をミッションに掲げていて、そこをベースに教育・学習体制を整えています。まず「ウィルの歩き方ガイド」というマニュアル的なものがあり、困ったときに立ち返るものとしてずっとアップデートしています。大事にしている考えとしては、管理者や教育者がモニタリングや集計のために残業をする、責任がのしかかることがないようにしています。僕らの本業はベッドサイドケアであって、訪問に行ってできるだけ多くの人にいいケアをしたいからです。極力、普段の訪問のなかで勝手にデータが貯まっていくように、業務の仕組みを作り、チームでみていけるようにしています。

WyL株式会社提供資料 ウィルクラウドの画面

ウィルが使っている電子カルテ「ウィルクラウド」では、日々の記録などのデータからさまざまな客観データをみることができます。例えば、同行訪問や単独訪問の件数やどんな利用者さんを担当しているか、看護問題、計画の傾向なども月ごとに、個人ごとにチェックすることができます。それを一緒に新人さんと振り返り、「先月と比べて単独訪問がこれだけ増えたね」と一緒に喜んだり、あまり経験していない疾患や苦手なところなどはフォローを入れたりしています。これは新人さんに限らず、他のスタッフも同様です。看護やケアの「質を上げる」という話はよく出ますが、なにかを向上する、改善させるためにはそもそも測られていないといけないので、まずはこうしてデータを集めていくところからです。

継続教育では、いろんなチームに横断的に関わり、相談に乗る相談支援チームを設けています。病院でいうとNST(栄養サポートチーム)、RST(呼吸ケアサポートチーム)みたいなものをイメージしてもらえたらと思います。領域特化型ではなく、全方向なのが特徴ですね。たいていは認定や専門看護師か、その領域のPh.D.を持っているスタッフで構成されています。

WyL株式会社提供資料 ウィルの相談支援チーム

最近の取り組みでおもしろいと感じるのは、実際にこの相談支援チームのメンバーが訪問しているところを撮影しておき、さらにこのときの考えや言動、行動についてそれぞれ自分で解説してもらっていることです。同行訪問中に新人さんへすべて伝えるのは現実的に難しいですが、意図がある言動や行動は看護であるので、それを動画としてきちんと残していこうというものです。大事にしているのは、相談支援チームの我々も先生ではなく、自分たちも看護実践を通して一緒に考えていくスタンスであることです。

WyL株式会社提供資料 臨床判断モデルの資料

継続教育のところでは、臨床判断能力や臨床判断モデルをどのように取り入れていくか、実践能力のトレーニング以外にも、ウィルには管理者という役職がないのでチーム内での振る舞いに関するトレーニングも現在課題ではあります。

吉江さん:
ソフィアメディでは、本部とステーションが一体となって教育研修を進められるようにしています。スタッフの研修状況は人事評価システムでステーション管理者や教育を担当するスタッフが一括して確認できるようにしています。新入社員研修の受講状況や他OJTの進捗をみんなで確認しながら育成しています。

ソフィアメディの人材育成はVMSの理解に重きをおいています。VMSとは、ソフィアメディが経営方針のなかで定めているビジョン・ミッション・スピリッツです。特にミッションである“英知を尽くして「生きる」を看る。”を実践するために必要なことを新入社員研修で学べるように力を注いでいます。

ソフィアメディでは部門ごとに分かれて研修があり、医療専門職・管理職・ケアマネジャー・デイサービス、事務総合職ごとに、それぞれが研修コンテンツを受けてもらいます。

そして、先ほど話した山里レーンで成長を続け、スタッフの技能が向上していくことでCS、ESなども連動して向上していくことを目指しています。私たちはそれらの項目からソフィアメディエクスペリエンス(SX)として測定し、自分たちの提供価値を継続して向上していけるようにしています。そうした積み重ねによって社内外ともに評価を受け、来年度の教育研修・体制に反映させていく、循環をさせていくモデルをぐるぐるモデルとして2020年から実装しています。

ただ、新入社員研修については半年、1年とフォローはしていますが、その後の3年、5年とどこまで手厚いフォローができているかという点については課題があります。ある程度の能力やスタンスの規定はクリニカルラダーでもできますが、それだけで人を規定できないとも思っています…。マネジメントに進みたい人、スペシャリストとして進みたい人もいるので、現在のクリニカルラダーに加え今後マネジメントラダー・スペシャリストラダーも構築して、進んでいく先が少しでも見えるようにしていきたいと考えています。

───後編へ

[文]白石弓夏