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【セミナーのご案内】地域医療先進国オランダから学ぶコロナ禍における在宅医療の在り方

コロナ禍によって日本の在宅療養の場でも、さまざまな影響や変化がありました。現在も感染拡大の波を繰り返している状況で、それは日本だけでなく、世界中で同様のことがいえます。例えば、プライマリ・ケア先進国で医療制度の水準が高いオランダでも、さまざまな影響や課題があったことでしょう。

今回ソフィアメディ在宅療養総研では、オランダ在住の在宅看護師で、現在ビュートゾルフで働いている葉子・ハュス・綿貫さんをお招きし、新型コロナウイルス感染症の影響で在宅ケアの場面にはどのような変化があったのか、実情についてお聞きし、日本とオランダの違いから在宅医療の在り方についてお話しいただきます。在宅療養を支える医療・介護従事者向けの内容となっております。

イベントタイトル:地域医療先進国オランダから学ぶコロナ禍における在宅医療の在り方
日時:2022年9月27日(火)18:30~20:00
方法:リアル会場とオンライン会場のハイブリット開催
会場:リアル会場=TSUNAGARU SPACE(愛知県名古屋市中区栄3丁目19番19号)
オンライン会場=Zoom
*葉子・ハュス・綿貫さんはオンライン、ソフィアメディ在宅療養総研所長の中川さん、副所長の篠田さんはリアル会場から参加となります
参加費用:無料
申し込み:下記リンクからお願いいたします


登壇者プロフィール

セミナー開催に先立ちまして、2022年8月に事前鼎談の場を設けましたので、そのサマリーをお届けします。鼎談では、ビュートゾルフの葉子さんと、ソフィアメディ株式会社からは在宅療養総研所長の中川さん、副所長の篠田さんの3名に語っていただきました。

※記事の内容は取材当時(2022年8月上旬)のものです。


在宅療養の場における新型コロナウイルス感染症の影響

中川さん:
『コロナ禍の在宅療養』というテーマにおいて、まず日本のお話をさせていただきます。現在は新型コロナウイルス感染症の感染急拡大(第7波)により、1日当たりの新規感染者数が20万人を超える事態で、かつてない拡大をみせています。

在宅療養の場では、高齢者の方々の入院調整ができない事例が多く出ています。例えば、末期がんのお客様では、「バックベッド」とされる有事の際に入院できる病床の確保が以前まではありましたが、医療機関がひっ迫してそれができない状況です。そうした中でも在宅療養の場において、感染が拡大しています。

ソフィアメディでは、「安心であたたかな在宅療養を日本中にゆきわたらせ、ひとりでも多くの方に、こころから満たされた人生を。」というビジョンを掲げておりますので、こうした状況下で、私たちができることはなんだろうかと考えながら日頃からサービスを提供しています。感染の流行状況に応じて、必要な取り組みに注力してきました。その流行の様は、第1波から7波までの間で大きく変化してきました。

オランダにおいても、感染拡大の初期と現在では、その様相が大きく変わっているのではないかと思います。在宅療養の場への影響や変化などについてぜひお聞きしたいです。

葉子さん:
オランダで感染が広まったのは、2020年の3月頃のことです。対岸の火事だと思っていた中国からイタリアに飛び火して大流行し、しかもスキーでイタリアに出かけていた人たちが、毎年オランダで行われる大きなカーニバルに参加し、急激に感染拡大していったという経緯がありました。

当初は非常に混乱していました。中国からの輸入を制限したことで、マスクの在庫がなくなりました。国としてもすぐに各病院と連携を取り、病床の確保・新設をし、関連する政策も出されました。そのとき、ビュートゾルフで働く看護師が「私たちが何かしなければいけない」と『危機対策チーム』を立ち上げ、マスクや防護服などの物資の調達、各チームで国の政策に則ってどのような対応をしなければいけないかなどを話し合い、早くから行動していたのを思い出します。

当時、最も現場がひっ迫していたのは老人ホームだったと思います。高齢者施設内で感染拡大が多かったにもかかわらず、そこで働く人たちへの感染対策に関する物資が十分行き届いていませんでした。そのため、施設で過ごす高齢者だけでなく、職員の感染も非常に多かったのです。それが第1波〜2波の頃のことです。それから段々と新型コロナウイルスがどんなものかわかり、緊張感はずっとありつつも、適切な感染対策を行って、落ち着いて働けるようになりました。

オランダ政府は2022年の2月から段階的に新型コロナウイルス感染症に関する規制緩和を進め、3月23日からはマスク着用を含む規制措置が全面的に撤廃されました。訪問時のマスク着用義務も同時に解除されたので、「これで普通に仕事ができるな」と感じていたところ、今また少し感染が広がっている状況です。日本と異なるのは、これまでのように積極的にPCR検査を行う動きはなく、感染者数の発表もニュースにはほとんどあがっていません。これまでのような緊張感はあまりないですね。

そのなかでも、在宅療養の場では感染している人もいますので、そこはこれまで通りスタンダードプリコーション(標準予防策)として、防護服をつけて対応しています。オランダでは訪問看護が広く行き届いているので、感染した方も自宅でみられるような体制があります。私が働く地域では感染者はそれほど多くはありませんが、ホームドクターも軽症から酸素投与ほどの必要がない状態の方については自宅で経過をみていることが多いです。そのため、病院の煩雑な状況は避けられているのではないかと思います。

篠田さん:
日本は官僚制や縦割りの考え方が根強く、政策に関しても後手後手にまわるというのが実際で、非常に現場も苦労したと思います。また、現場から意見をして変えることはなかなか難しかったですね。一方で島国の特徴なのかもしれませんが、医療従事者の風評被害は大きな問題となりました。何かあるとメディアが取り上げ、ネガティブな評価が広がるレピュテーションリスクも高かったことでしょう。現場としては医療従事者の倫理観でなんとか医療崩壊ともいえる事態に対処している状況です。このようなオランダとの違いがあるのかと感じますね。


コロナ禍でのさまざまな変化、印象に残っているエピソード

中川さん:
葉子さんが感染症の対応をするなかで、患者さん側からなにか要求を受けたことや、印象に残っているエピソードはありますか。

葉子さん:
オランダの人は上から押さえつけられて、あれしろこれしとろと言われるのを嫌う国民性があります。そもそもマスクをつける習慣はこれまでなかったので、マスク着用が義務化されたときには賛成派と反対派がはっきりと出ていましたね。もちろん、私たち医療従事者はさまざまな考えや価値観があっても、感染対策としてマスクをつけていました。しかし、患者さんによっては「マスクをとってほしい」と言われることもありました。90代の患者さんで「あなたの顔が見えないじゃない、私はもう3回ワクチン打ってるんだから大丈夫よ。もしコロナにかかっても、それでおさらばだからいいのよ」というような考えの方もいます。

一方で、非常にナーバスになっている患者さんもいました。タクシーで病院に行く用事があったけど、その運転手がマスクをしないで咳をしていた状況等を振り返り、「コロナにかかっているかもしれない運転手のタクシーに乗り、病院に行って帰ってきてしまった。もしかしたら私もうつっているんじゃないか。」と何度もPCR検査をされる方もいました。そういう緊張感や不安が強い患者さんもいて、対応の仕方はずいぶんと変わりますね。

篠田さん:
感染拡大初期はスタッフが感染して休むことになると、大きなミスをしたような目でみられてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになるようなこともありましたね。現在では感染については普遍化し、スタッフの感染も珍しいことではなくなってきました。そうした経緯もあり、ステーションの運営方針についてもBCPの考え方が根付いてきていると思います。例えば、訪問看護はそれぞれの担当者がある意味責任をもって一人で対応しがちなところもありますが、チームメイトが感染しても、代わりにすぐに対応できるよう、チームや地域で補いあい、一人で抱え込むような体制から脱却できたという声を聞くこともあります。チーム医療や地域連携への良い影響もあったのではないかと振り返っています。

葉子さん:
オランダでも当初は、感染すると嫌な目で見られるようなことはありましたが、それはすぐに解消されましたね。コロナ禍を通して、総合的にみると訪問看護の内容はコロナ禍前後では大きく変わっていないと思います。その中で変わったことといえば、意思決定支援に関する部分ではないでしょうか。ホームドクターは担当する患者さんに「もしコロナにかかったらどうしますか、その時にどこで最期を迎えたいですか」と聞く場面が増えたと思います。私たちとしても、こうした話を患者さんとすることが増えました。誰しもが罹ってしまう可能性がある感染症を前に、意思決定支援を行うことがしやすくなっているのではないかと感じています。当然、意思決定支援は継続的なプロセスなので、コロナのことだけではなく、その人その人の時期や状況によって継続的に支援しています。人間関係がしっかりと構築されていることが前提にはなりますね。

その他には、コロナ禍によって自立支援を促すきっかけにもなった方々もいました。一方で、孤立化という厳しい状況も同時に生まれていました。感染拡大で訪問を控える時期があり、その時に患者さん本人たちも「頑張って自分でやる」というプラスの転換がありました。しかし、オランダではロックダウンが行われていたので、その時期はどこも閉鎖となって孤立化が非常に強まったなとも実感しました。高齢者の暮らす施設やデイサービスなどでは、実際に「門戸を開いてください」という声も上がっていました。孤立時期は短く済んだかもしれませんが、自宅で孤立化してしまう方々に対して危惧もありますね。

中川さん:
オランダにおけるコロナ禍の在宅療養の実際についてお話しくださり、ありがとうございました。日本においても、オランダにおいてもコロナ禍によって在宅療養の場面は変わった点、変わっていない点さまざまですね。日本ではコロナ禍以降、在宅医療を選択される方が増えています。コロナ禍を経て、これからの在宅療養がどのように変化していくのか、9月27日のセミナーでも、詳しくお伺いしていきたいと思います。