訪問看護のソフィアメディ

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ソフィア訪問看護ステーション宮前のデスカンファレンスの実際

抱え込まない、看取りで後悔をしないためにできること
~ステーション宮前のデスカンファレンスの実際~

吉江 歩
吉江 歩 Ayumu Yoshie
ソフィア訪問看護ステーション宮前管理者。金沢大学医学部保健学科卒業後、関西・首都圏で急性期病院と訪問看護に従事。2010年にメキシコへ留学し、メキシコ国立自治大学Universidad Nacional Autónoma de Méxicoにて中米の医療とスペイン語を学び、国立がん研究病院Instituto Nacional de Cancerología・ナウカルパン赤十字病院Cruz Roja Naucalpanにて研修。JICAパラグアイにて公衆衛生プロジェクトにてインターンシップ。2019年リーズ大学医療情報学修士課程修了し、ソフィアメディ入職。

訪問看護の分野では、在宅ケアの対象者の急増と重度化、さらにコロナ禍により、自宅での看取りに直面する看護師の増加が懸念されています。特に在宅での看取りに関しては、主介護者のみならず、ケアに携わる看護師の精神的負担も大きなものでしょう。ソフィアメディのなかでも、デスカンファレンスの取り組みを積極的に進めているステーションがあります。今回は、ステーション宮前・管理者(2021年4月当時)、看護師である吉江歩さんがデスカンファレンスの実際について、ご報告します。

※デスカンファレンスとは
広瀬は「デスカンファレンスの目的は、一言で言えば、亡くなった患者のケアを振り返り、今後のケアの質を高めることにある。ディスカッションをとおして看護師個々の成長を支援することにもなる。」としている。

引用
広瀬寛子:明日の看護に生かすデスカンファレンス(第1回)デスカンファレンスとは何か-意義と実際,看護技術,56(1),p.64-67,2010.
http://www.pn.med.tohoku.ac.jp/pdf/d201001.pdf

医療を受けられない人に対して、何か自分にできることはないかという思い

聞き手)吉江さんは、2020年12月にソフィアメディの社内研修でデスカンファレンスについて発表しました。まずは、これまでどのような経験をされてきたのか、また現在のステーションについて教えてください。

吉江)私は急性期の病院で7年、訪問看護の分野で働き始めて5年目になります。急性期の病院では、呼吸器と消化器、脳神経外科の混合病棟だったので、周手術期やがん治療の患者様を多くみてきました。元々発展途上国で医療を受けることができない人に対して何か自分にできることをしたいとこの道を志しました。この間、中南米の医療や保健システムを経験したり大学院で保健情報を学ぶ機会も与えられて、現在に至ります。

聞き手)これまでの病院や訪問看護ステーションでもデスカンファレンスは行っていましたか。

吉江)病棟時代はデスカンファレンスと呼ばれるものはやっていませんでした。亡くなる方は多い病棟でしたが、症例検討のなかで少し振り返りをする程度のものでした。前職の訪問看護ステーションでもその取り組みはありませんでした。ソフィアメディに入職してから取り組みをはじめました。

聞き手)それはどのようなことがきっかけではじめたのですか。

吉江)ずっと前からこのようなことをやりたいなというイメージはありました。それは、現場で「もっとこうすればよかったのに」と自分たちの関わり方や、同職種・多職種での共通理解や合意形成ができていればと、大きな後悔をすることを何度か経験していたからです。同僚と話す中でも、利用者様の死後の振り返りの時を持つことの必要性を、ひしひしと感じていました。また、ソフィアメディ入職前のイギリス留学時に、病院の中で活動する『チャプレン』という職業の方に出会ったことも大きな機会でした。患者様一人ひとりの精神的・霊的な痛みの部分に対しての癒しだけでなく、苦しむ患者様に関わる医療従事者に対してもスピリチュアルケアをすることが自然に行われている。医療従事者をケアする人が、必要な存在として認められているという、新たな発見がありました。

※チャプレンとは
沼野は「チャプレンとは,施設で働く宗教家であり宗教的援助者である」としている。

引用
沼野尚美:ホスピス緩和ケア白書2015 ホスピス緩和ケアを支える専門家・サポーター,青海社,p.40-43,2015.
https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2015/2015-1-11.pdf

ひとりで抱え込まないように日頃から話しやすい場を意識

聞き手)チャプレンとの出会いから、看取りで精神的な負担を抱えていたスタッフに対して、デスカンファレンスの取り組みをはじめたわけですね。実際にはどのようにデスカンファレンスを行っているのですか。

吉江)私が管理者をしているステーション宮前は、川崎市にある開設2年目(2021年4月取材時)の新しいステーションです。0歳から100歳を超える方を対象に、難病や脳血管疾患、慢性疾患、精神疾患、がんなど、様々な疾患の方を訪問しています。最近ではコロナ禍で院内での面会ができないこともあり、最期の時をご家族と一緒に過ごされるためにご自宅に退院された方を、訪問させていただくことも多くなっています。

デスカンファレンスの頻度は2~3か月に1回程度。看取りが多くなる時期やスタッフの疲労感が蓄積するタイミング、難しい状況を経験した後などを見計らって、「デスカンファレンスをしましょうか」と自分から提案をして実施しています。基本的にはテーマを決めて行います。なかでも他機関とのデスカンファレンスでは、あらかじめ話し合うケースをリストアップし、どういう関わりや経過があったのか、ご家族の心情なども含めて話し合っていきます。ケアマネジャー、地域包括支援センターの担当者、ボランティア団体の方、ご遺族の方に集まっていただいたこともありました。

デスカンファレンスの流れとしては、マニュアルに沿って行うようなことはせず、WHOの健康の定義でもある“健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態”という健康の各側面をみていくように、利用者様やご家族の状態・状況経過と自分たちのケアを振り返ることを意識しています。おおよそ1.5~2時間くらいで運営しています。

※健康の定義
引用
公益財団法人 日本WHO協会 https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
World Health Organization. Regional Office for Europe. (‎1984)‎. Health promotion : a discussion document on the concept and principles : summary report of the Working Group on Concept and Principles of Health Promotion, Copenhagen, 9-13 July 1984. Copenhagen : WHO Regional Office for Europe.
Chirico, F. (2016). Spiritual well-being in the 21st century: It’s time to review the current WHO’s health definition. Journal of Health and Social Sciences, 1(1), 11-16.

内容としては、まずは話し合う利用者様の看取りについて経過を話します。その中で、スタッフもだんだん利用者様のことや自分たちの関わりを思い返し、「あの時はこうでしたね」「こういうことが難しかった」とポツポツと話してくれはじめます。とにかく否定したり、自分が説明しすぎたりすることはせず、客観性を持って、「そうだったんですね。それはいつだったらできたと思いますか」などと発言をフォローしていき、スタッフ自身が話しやすい状況を作るのが大切だと思っています。自分から積極的な発言が多くはないスタッフでも、利用者様の最期のときを訪問して支援すると、心に抱えていることは色々とあり、質問という形で声をかけると感じていたことや難しさを話してくれます。私たちのステーションは完全担当制でなく、チームで利用者様を看ているので、困難さや感情を共有しやすいことはメリットだと思います。訪問者は「この判断でいいのか」と悩んだり自信のない状況での判断も多いので、話し合うことで利用者様への理解が深まっていくことはとても重要だと感じます。

聞き手)反対にチーム制だから難しく感じるところはありますか。

吉江)チームで関わっていると、例えばオンコールで夜間呼ばれたときに、スタッフによっては初めてお会いする方の看取りをする場面もあります。非常にセンシティブなそのような状況で、瞬時に利用者様やそのご家族のことを把握してケアに繋げるのは難しいことも多いと思います。そのための対策として、訪問同行をできる限り調整したり空いた時間で挨拶に伺うなどをすることで、できるだけ初対面ではないような工夫はしていますが、それも完全に行えているというわけではありません。

自分たちの立場、役割をあらためて感じたデスカンファレンス

聞き手)デスカンファレンスを通して、スタッフやご家族からはどのような反応があるのでしょうか。印象に残っているエピソードなどはありますか。

吉江)自宅での看取りを早い段階から覚悟されている利用者様のご家族が、デスカンファレンスに参加されたときの言葉が心に残っています。介護状況とご家族の希望もあり、訪問頻度は週に1回30分で対応していました。しかし、だんだんと状態悪化されるにつれ、主治医から毎日診察、訪問看護が入る、もしくは入院したほうがいいのではないかという話が出たことがありました。ご家族は静かに自宅で最期まで過ごすことを希望されていたので、私たちから医師へご家族の気持ちや介護状況を説明し、「介入頻度はこのままで様子をみたい」と相談しました。結果として、臨時の介入となったのはお看取り前日・当日だけでした。

そして、利用者様のご逝去後、他機関も含めたデスカンファレンスを行った際にご家族の方にもお越しいただくいただくこととなり、その時にお話しされた言葉を非常に重く受け止めました。
「ときに医療は過剰な介入を要求してくることがあります。家族が(これ以上の医療処置を)やらないと選択したことに反して、医師から治療や入院を勧められると、『私はこの人のためにならないことを選んでしまったのではないか』と動揺し、罪悪感さえ感じてしまいます。しかし訪問看護さんは、私たちが望まない選択をしないよう寄り添ってくれ、私の意思を尊重してくれました。」
このことを通して改めて、訪問看護師は利用者様・ご家族の意思を知って尊重する必要があることを、実感しました。そして時に意思決定を支援する役割があることも、これまでの経験から感じております。

参考
Thelen, Mary. “End-of-life decision making in intensive care.” Critical Care Nurse 25.6 (2005): 28-37.

聞き手)ありがとうございます。このケースのように他機関も入るデスカンファレンスはどのようなメリットがあると考えていますか。

吉江)在宅ケアでは多職種で協働しなければなりませんので、各ステークホルダーの意見や判断を知ったうえで、自分たちの関わり自体も客観的に振り返りができることではないでしょうか。普段ステーション内で行うカンファレンスでは、感情が出しやすい反面、自分たちだけの視点になりがちで、他から自分たちの関わりがどう見えているかまで話ができないことがあります。しかし、多職種としての立場で看取りをどうみるか、建設的な意見をいただけることは大変貴重な機会だと思っています。

そしてなかなかない機会ではありますが、利用者様のご家族がカンファレンスに加わってくださる、ということは、非常に大きな意義を感じます。なぜなら、先の見えない介護の中、心身の負担の大きい時間を過ごされるご家族の方々が、その看取りのときというとても大切で、かつ非常に複雑な心境を経験されている時を、どう利用者様と過ごされたのか・どう振り返っておられるのか、なかなか察しきることはできないからです。お亡くなりになられた後、ご家族からお話を伺う際、介護時の複雑な心境を語っていただくことが、しばしばあります。また、本当に大切な時間を過ごされたということを共有いただけることもあります。いずれの場合も、語っていただくことで、ご家族自身が状況を受け入れる機会となったり慰められている時間となっていると実感します。その時に、介入していた私たち自身も慰められ、あの時・なにをしたというケアを振り返り、どのような意味があったのか深いメッセージのように受け取ることができます。

参考
秋山正子:在宅ケアの不思議な力,医学書院,2010.
大友宣, 佐野かず江, and 島田千穂. “在宅療養支援診療所と訪問看護ステーションにおけるデスカンファレンスの意味づけ.” 日本プライマリ・ケア連合学会誌 37.4 (2014): 369-373.

多様なカンファレンスの機会を

聞き手)若手看護師の育成なども含めて、デスカンファレンスについて今後こうしていきたいと考えていることなどはありますか。

吉江)デスカンファレンスを通して、「私たちのチームはこういうことを大事にしている。」というチームとしてのイメージが共有できて伝わればいいなと思っています。利用者様・ご家族・自分たちが少しでも後悔の少ない看取りができるようにということを私から話し続けているので、チームとして同じイメージや経験を共有し、自分たちの成長につながっていくことを意識しています。

ソフィア訪問看護ステーション宮前
ソフィア訪問看護ステーション宮前

今後は、感情の共有がしやすいクローズドなステーション内のデスカンファレンスも大事にしつつ、他機関も巻き込んだカンファレンスの開催ができたらと考えています。ソフィア内の他ステーションの管理者やスタッフ、他機関の医師やMSWなども参加してもらって年に1~2回できたら良い地域活動となると思います。それぞれのカンファレンスで特性が違いますが、自分たちのケアを振り返るだけでなく、利用者様とのご関係を想うときとなり、自分たちの肩の荷を下ろすことができる、そのような機会を継続的につくっていければと思います。

参考
宮下光令/林ゑり子. 看取りケア プラクティス×エビデンス~今日から活かせる72のエッセンス~, 南江堂, 2018
本田香. “多職種デスカンファレンスの効果: 高齢者医療・終末期医療の在り方を多職種で検討する取り組み.” 日本医療マネジメント学会雑誌= The journal of the Japan Society for Health Care Management 21.1 (2020): 34-37.
明日の看護に生かす デスカンファレンス, 看護技術 2010. Vol.56 1−12月号
Cedar SH, Walker G (2020) Protecting the wellbeing of nurses providing end-of-life care. Nursing Times [online]; 116: 2, 36-40.
Vinayagamoorthy, V., Suguna, E., & Dongre, A. R. (2017). Evaluation of community-based palliative care services: Perspectives from various stakeholders. Indian journal of palliative care, 23(4), 425.