経験ゼロから小児ケアのコミュニティ立ち上げまで――ステーション岐阜南が考える、地域で看る小児ケアの未来

経験ゼロから小児ケアのコミュニティ立ち上げまで――ステーション岐阜南が考える、地域で看る小児ケアの未来

「小児のケアは経験がないと難しい」「成人のケアと違うポイントが多く不安」。小児のケアについて、こう感じる医療職の方は多いのではないでしょうか。
ソフィアメディ訪問看護ステーション岐阜南も、かつては小児経験の少ないスタッフからスタートしました。しかし今、地域の多職種を巻き込み、医療的ケア児とそのご家族を支えるコミュニティを立ち上げるまでに成長。未経験からここまで至った背景には、どのようなプロセスがあったのか。小児ケアを目指したいと考える方へ向けたメッセージを、管理者井林さん、看護師熊﨑さん、そして医療事務の清水さんの3名に聞きました。

医療ケア児の運動会の様子

左から、清水さん(医療事務)・井林さん(管理者)・熊﨑さん(看護師)。立ち上げた小児ケアのコミュニティ「Hold13」の13にちなんだポーズで

バトンを繋ぎゴールした感動。多職種で支えた医療的ケア児の運動会

ーステーション岐阜南は、小児訪問看護について先進的な取り組みをされていると伺いました。まず先日参加された、医療的ケア児の運動会について教えてください。

井林(管理者):はい。地域連携先であるかがやきキャンプ様が主催された運動会に、私たちもサポートとして参加させていただきました。かがやき様とは、参加者の一人であるイサちゃんという女の子を共に担当させていただいていました。
この運動会は、子どもたち一人ひとりの疾患や状態に合わせ、事前準備が綿密に行われた上で実現したイベントです。カニューレや人工呼吸器をつけている子どもたちが、ご家族や私たち医療者と共に、綱引きや大玉転がしなどたくさんの種目を楽しみました。

運動会に出場するイサちゃんと、サポートするスタッフ

熊﨑(看護師):最後の種目だったリレーは、競争ではなく「みんなが一つのチームとしてバトンを繋ぎゴールを目指す」というルールで行われ、それぞれの子どもたちがサポートを受けながら決められた距離を走り、次の走者へバトンを渡していきました。みんなのバトンが繋がり最後にゴールした瞬間は、子どもたちの頑張りやまわりの温かいサポートを強く感じ、感動で涙が出ました。

清水(医療事務):私は医療事務なので普段訪問に出ることはありませんが、この運動会で初めてイサちゃんやご家族にお会いできました。子どもたちがバトンを繋いだ瞬間の喜びは、私もとても感動し胸がいっぱいでしたね。改めて私たちが果たすべき役割を強く感じた瞬間でした。

運動会をサポートするステーション岐阜南のスタッフ

小児経験ゼロの壁をどう乗り越えた?不安だったスタートから、地域に選ばれる存在になるまで

ー今やステーション岐阜南は、地域から信頼され多くの小児を受け入れていますが、ほとんどのスタッフが小児ケア未経験からのスタートだったと伺っています。最初はどんな気持ちでしたか?

熊﨑(看護師):私は以前、総合病院の救命救急センターで働いており、小児を看る経験はほとんどありませんでした。ソフィアメディへ転職し、小児領域に興味はあるものの、経験がなく自身の子育て経験もないので、知識や経験が不足している状態からのスタートでした。小児はバイタルサインや呼吸様式などが成人と大きく異なるので、とても不安に感じていましたね。

井林(管理者):熊﨑看護師だけでなく、ステーション岐阜南の他のスタッフも、最初から小児の経験がある者はほとんどいません。しかし私たちの根底には、「このエリアにおいて、全ての方の受け皿になりたい」という強い思いがあり、小児も必ず受け入れたいと考えていたんです。

ーそうだったんですね。経験なしの状態から現在に至るまで、具体的な道のりについてお聞かせいただけますか?

井林(管理者):ソフィアメディのステーション大垣が小児の受け入れを行っていたため、ステーション岐阜南の看護師4人、リハビリ2名の計6人で同行訪問させていただき、実際の訪問でケアを学びました。

ーなるほど、拠点の多いソフィアメディだからこそ、近隣ステーションと協力し合うことができたんですね。

井林(管理者):はい。さらに私と熊﨑看護師は、地域の「重症心身障がい児者看護人材育成研修」に半年間参加し、そこで専門的な知識や技術を学びました。さらにその学びを基にステーションで勉強会を開催し、他のスタッフにも還元できるようにしました。
これらの取り組みを基に受け入れを増やし、途中不安を感じても無理せず共有しながら、全員で支え合い経験を重ねていった結果、今では13名のお客様を受け入れています。熊﨑看護師はその筆頭となって、今ではとてもプロ意識の高い看護をしています。

熊﨑さん(看護師)が講師となり、ステーション内で開催した勉強会の様子

病院とは異なる、在宅だからこその小児看護の魅力

ー皆さんにとっての、小児訪問看護の魅力は何ですか?

熊﨑(看護師):成長の瞬間をご家族と共に喜べることですね。例えば、その子の体重を増やすために成長曲線をつけたりミルクの量を調整したりして、親御さんと一緒に悩みながら色々取り組んだ結果、体重が増えたという時はやはりとても嬉しくて。お母さんと一緒に喜び合っています。この瞬間がやりがいになっています。

ー病院ではなく在宅だからこそ感じる魅力もありますか?

井林(管理者):はい。小児だけではないですが、訪問看護は生活の場であるご自宅にお邪魔させていただくので、ご家族全体の一日一日の喜びや葛藤を感じます。「お母様が最近不安を強く感じていらっしゃるな」とか、「(兄弟がいるご家庭で)兄弟からこんなことを言われたんだな」など感じ取るものがあります。ご家族は24時間つきっきりで、医療ケアや子育てをされていることが多いですが、私たちが訪問するのはその中のたった1時間ほど。その貴重な1時間で最大限できることをし尽くすためには「どのような姿勢で、どのような言葉をかけるべきか」を常に考えています。ご家族の言葉にならない不安や日々の頑張りに寄り添えるのも、訪問看護ならではのやりがいですね。

ー今後、どんな支援をしていきたいですか?

井林(管理者):小児看護は、医療ケア、療育、ご家族の気持ちのサポートといったように、本当に多岐にわたって見るべきポイントがあります。最大限の支援をしながら、また学びを深めてステーション全体に還元し、より多くの方を受け入れられたらと思っています。

清水(医療事務):私は医療事務なので訪問看護を裏側から支える役割ですが、小児領域には成人とは異なる制度が多くあるんです。これらの制度や知識をさらに学んで、お客様やスタッフが安心してケアに集中できる体制をつくっていきたいと思っています。

多職種間の壁を超えるハブとして:小児ケアのコミュニティ「Hold 13」を始動

ーステーション岐阜南では、新たなコミュニティ「Hold13」を立ち上げたと伺いました。

井林(管理者):はい。小児ケアという専門分野において、経験の有無に関わらず皆で学びを深め、職種を超えて連携できるようなコミュニティを立ち上げました。
きっかけは、かがやき様に合同勉強会をしませんかと話を持ちかけた際に「私たちだけに留まらないもっと面白い場にしよう」とご提案いただいたことです。イサちゃんとの出会いが大きな契機となったので、イサちゃんにちなんで「Hold13」と名づけ、2025年11月にキックオフを実施しました。最初はイサちゃんの関係者10名ほどが集い、看護師から重心・小児のバイタル異常・発熱と熱性痙攣の対応を、理学療法士からは安定性・快適性・機能性を確保したシーティングの重要性をお話いただき、イサちゃんの抱っこ、バギー、ドライヤー姿勢の実践を通し、生活目的に合わせた個別支援の視点を深めました。

Hold13キックオフの様子:かがやきの理学療法士の方が「ISSの理論に基づいた国際基準のシーティング」を解説されている様子


井林(管理者):今後もこのように症例を基に多職種で学びを深めていく予定です。小児経験の少ない方でも参加できるようにし、ゆくゆくは地域の温かいコミュニティへと発展させたいと考えています。

ー素晴らしい取り組みですね。「Hold 13」をどのような場にしていきたいですか?

井林(管理者):私たちが目指すのは、地域機関同士が顔の見える関係性を築き、具体的なケアについて相談し合って、互いに学び合える環境を確立することです。小児の分野では、医師や保育士、看護師など、一人の子どもに様々な職種が関わりますが、立場が違うために「こんなこと聞いて大丈夫かな」といった相談しにくさ、つまり壁が発生することが多くて。「Hold 13」を通じてその壁を取り払っていきたいと考えています。
イサちゃんの看護を通して、私たちは連携先のかがやき様からたくさんのことを学ばさせていただきました。このように職種や法人を超えて連携することで、より良いケアを提供することはもちろん、地域全体で子どもたちを支える力を強化していきたいと思っています。

小児に興味があるなら、不安を共有しながら仲間と乗り越えていける環境がある

ー最後に「小児の訪問看護に挑戦したいが、一歩が踏み出せない」という方に向けてメッセージをお願いします。

井林(管理者):経験がないことから来る不安は、誰しもが持つものだと思います。私たちのステーションでは、最初は同行しながら実践の中で学んでいく体制があるので、不安を一人で抱え込まず、ステーションの仲間や地域の多職種との輪の中で乗り越えていけると思います。もし少しでも「小児看護に挑戦したい」という思いがある方は、ぜひ私たちのステーションに来てみてください。共に学び、地域を巻き込んだ新たなケアの形を一緒に創っていきましょう。

ステーション岐阜南のスタッフ集合写真
2025年の全社総会にて、最優秀賞(中規模ステーションMVT)を受賞した様子